11.あの人も心の病だった

 11.3空海

 空海が行った密教の秘法に、「虚空蔵求聞持法(こくぞうぐもんじほう)」なるものがある。100日間に虚空蔵菩薩の真言を百万回唱えると、8万4千もの教典を読唱したことになり、多くの智恵を授かるというものだ。

 同じ言葉を繰り返すことで、脳はトランス状態になる。「4.7無駄な努力だったことA運動」でも述べたように、「リズム」はセロトニン神経を刺激する。宗教が、「リズム」を利用している例は多い。鎌倉新仏教の法華の太鼓や一遍の踊念仏しかり、また、旧仏教の声明(しょうみょう)などもその類であろう。

 だが、空海の行ったことは、一般人がとても真似できることではない。なぜ、空海は、この荒行に挑んだのか。もちろん、宗教者としての修行の一環だったのだろうが、ひょっとして、心の病への対抗ということはなかったか。

 平安時代の人物に関する資料は乏しいので、迂闊なことは言えないが、空海も鬱だった可能性がある。40歳の時に、最澄に灌頂を行う際には、死を覚悟していたことがうかがえる。また、50歳の時に、藤原某に送った手紙にも、死を暗示させる記述がある。

 宗教に踏み込むには覚悟と勇気が必要だが、今後、精神医学との関連で、研究が進展することを期待する。

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