6.5家庭内暴力
−家出を企画するも挫折する(中学3年)
2019年1月に起きた、野田市の小学4年生女子の虐待死事件は、何とも痛ましいものだった。少女は、学校のアンケートに、次のように記した。
「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたり、たたかれたりしています。先生、どうにかできませんか。」
だが、父親にすごまれた野田市教育委員会は、本人に無断で、父親にアンケートを渡してしまった。
父親は、現在刑事裁判が進行中だが、母親も逮捕され、既に懲役2年6ヶ月(保護観察付き執行猶予5年)の判決が下っている。娘を虐待死から守れなかったという理由からだが、母親の自殺を抑止する目的もあったと思う。母親は、裁判で次のように述べている。
「守れなかった。娘が虐待されている時は、自分には害が及ばないので。」
この言葉は、私にはよくわかる。暴力に支配されていると、人は正常な判断ができなくなるのだ。私が父に暴力をふるわれている時、母が私を助けることはなかった。逆に、母が足蹴にされているのを、私はかばおうともしなかった。その間は、自分は安全だからだ。
私が私立中学に入り、母がパートに出ると、父の理不尽な暴力は一段と加速したと思う。母や私は、しょっちゅうターゲットになっていた。それでも、体が弱かった妹が対象になることはなかったと記憶していたが、最近本人に確認すると、同じ被害者だという答だった。早く家を出たいと、ずっと思っていたと告白した。
私も同じ思いだったが、そんな折、「新聞奨学生」の制度のことを知った。新聞配達をする代わりに、新聞社が学費を肩代わりしてくれ、住まいも提供してくれるというものだ。現在でも、その制度は生きているようだ。
私は、中学を卒業したら、家出することを決意し、まずは、夏休みに近くの新聞販売店でアルバイトを始めた。
朝3時に起きて朝刊を配る。夕方3時には夕刊の配達もある。一日2回の仕事は、生活リズムが狂い、思いのほかつらかった。たしか5日目ぐらいだったと思うが、ついに朝起きられず、無断欠勤をしてしまった。販売店主からは、「お客からクレームが殺到して迷惑を被った。クビだ。」との電話があり、その間のアルバイト料ももらえなかった。
母に話すと、「それはヒドイね。」の一言だった。
私は、自分のふがいなさに泣けてきた。「新聞奨学生」は、朝晩の配達のほかに、夜の集金業務もある。月一回の休刊日以外に休みはない。大変な重労働である。世の中は甘くない。14歳の少年の自立は夢と潰えた。
ところがである。私が高校生になったあたりから、父の暴力は、急に影をひそめることとなった。
なぜか?
答は簡単である。私の体が大きくなったからだ。やれやれ。
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