6.6貧乏をこじらせたエピソード
C「まじめにやってもらわないと困るよ」
−奨学金の保証人を伯父にお願いしたら(高校3年)
名門私立大学に合格した私は、奨学金を借りることにした。大学が独自に設けているもので、親の収入が低い家庭の子が利用できた。無利子の上、就職後20年以内に分割返済すればいい、という極めておおらかな制度だった。
当時は、まだ学生運動華やかなりし頃で、大学の授業料は極めて低く抑えられていた。たしか、月1万円しなかったと思う。私立でも、国公立大学とほとんど差がなかった。4年間分で40万円を借りたと記憶している。
学費は、奨学金でまかなうことができたが、サークル活動や旅行などの遊興費は、自分で稼がなければならない。ふだんは、家庭教師2件と学習塾の講師を掛け持ちし、夏休みや冬休みには、溶接工やデパートの売り子のアルバイトをした。とても忙しかったが、特にお金に困ったという記憶はない。
ただし、奨学金には、一つだけ難点があった。借用時に保証人が必要だったのである。私は、親の勧めで、父方の本家の伯父さんに頼みに行った。
だが、伯父さんは、なかなかハンコを押してくれない。しばらく書類を眺めていたが、やがて口を開いた。
「まじめにやってもらわないと困るよ。こっちに迷惑をかけるんじゃねーぞ。」
思いがけず、きつい言葉を浴びせられて、私は愕然とした。私という人間が信じられていない、ということか。
お金を頂戴するわけでも、借りるわけでもない。ただ、保証人になってもらうだけなのに。大学合格おめでとう、ぐらいの賛辞がもらえると思っていた。
まったく甘かった。実に世間知らずだった。18歳の高校生にとっては、いい社会勉強になったと思う。
ところが、そのおよそ20年後、私は、とんでもない事実を知ることになる。伯父さんが、数十億円の遺産を一人占めしていたということだ。
伯父さんにとっては、40万円など、はした金に過ぎなかったに違いない。にもかかわらず、私には冷たい対応をした。封建農家の長男は、学問に価値を置いていなかったということだ。
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