第12の謎:諸国に置かれた王/大官/官/副とはそれぞれ何なのか?

今まで見てきた魏志倭人伝に出てくる諸国の官職名を表5に整理してみよう。 

表5 諸国の官職名

国名

大官

対馬国

 

卑狗

 

卑奴母離

一支国

 

 

卑狗

卑奴母離

末盧国

 

 

 

 

伊都国

王の名は記述なし

 

爾支

泄謨觚、柄渠觚

奴国

 

 

[/]馬觚

卑奴母離

不弥国

 

 

多模

卑奴母離

投馬国

 

 

彌彌

彌彌那利

邪馬台国

卑弥呼

 

伊支馬

彌馬升、彌馬獲支、奴佳[革是]

狗奴国

卑弥弓呼

 

狗古智卑狗

 

 

表5をよくよく眺めていると多くの疑問が浮かんでくる。皆さんしばらく表を眺めて考えてほしい。5つ6つの疑問点がすぐに浮かんでくるだろう。

まずは、王/大官/官/副の役割は、それぞれ何だったのかということである。

“王”は、前に述べたように、中国王朝から認められなければ名乗れない称号である。伊都国、邪馬台国、狗奴国の3国は、中国との長い交渉の歴史があるのであろう。

ここで一つ気になることがある。伊都国には王がいるらしいが、なぜかその名は記載されてないのだ。これはどういうことであろうか。王より官を重視していたのか。魏志倭人伝には、「代々王がいるが、皆女王国に統属している。」とあるので、この時代、伊都国王の王権は有名無実となっていたのであろうか。

では、“官”とは何か。特に、対馬国では“大官”である。“大官”は、“官”とどう違うのだろうか。

おそらく“官”は、王とは別に、実務を執り行う行政長官のような職ではなかろうか。対馬国は、倭国の北の国境の国なので、特別に“大官”という名誉職が与えられたのだと考えることはできそうだ。

“副”は、副長官といった位置付けで間違いはなかろう。王のいる伊都国には2人、邪馬台国には3人いる。“官”を補佐する役目だっただろう。伊都国の場合は2名を続けて記しているが、邪馬台国の場合は、「次は」で3人をつないでいるので、序列があったかもしれない。官僚のピラミッド組織ができていたということだ。やはり邪馬台国は、一番の大国だ。

ところで、“官”“副”は、いったい誰が任命したのであろう。それは、卑弥呼が派遣したというのが、素直な考え方である。いや、中国の帯方郡が派遣したと主張する作家研究者もいる。

だが、これはどうであろうか。もし、中国の支配が倭国にも及んでいたとしたら、魏志倭人伝自体の書きっぷりと違ったものになるであろうし、“官” “副”の中国風の名が付けられたに違いない。やはり、卑弥呼が設置した役人と考えるしかないと思う。

では、“官”“副”の名は、人名なのであろうか、それも職名なのであろうか。

“官”では「卑狗」が、対馬国と一支国で同じだし、狗奴国でも使われている。もしかしたら「彦」かもしれない。古事記や日本書紀で頻繁に出てくる○○彦である。

“副”は、「卑奴母離」が4ヶ国で共通している。もしかしたら「夷守」かもしれない。夷はひなで、田舎、地方という意味である。

いずれにしても、“官”“副”の名は固有名詞ではなく、職名と考えるしかないであろう。

では、王名はどうか。邪馬台国の女王と狗奴国の男王が、一字しか違わないのはどういうわけだろう。固有名詞だとすると、両者は親戚関係にあったのだろうか。古代でも、兄弟が皇位をめぐって争うことはよくある。

卑弥呼を「日の御子」とする論もあるが、何とも言えない。

卑弥呼が死んだ後、宗女の「台与(あるいは壹与)」が邪馬台国の女王になるが、こちらは、固有名詞の匂いがする。

第13の謎